バカ物語「戦慄! 暗闇牡丹鍋教団」
「ある男が扉を開けました。開けっぱなしにして中に入ろうとすると、
『閉じてください!』
と言って、飛びげりをくらわす人がいました。以上」
「『ここは、みんなで秘密裏に牡丹鍋を...イノシシ鍋をつつく会なのです。
あなたは、お申し込みはしていますか?』
と、中にいて、『閉じてください』と言った人が詰めよって来ました」
「『もし、お申し込みがまだの場合は、以下の文章をお読みください』
と、注意書きが出されました。
そこには、“水をきり”と」
「水をきり、ね?
“水をきり、5秒ほど経過してから、確実にロックしてください”
と書いてあった訳です」
「申し込み書に?」
「なぜ?」
「何をやるんでしょうか」
「たぶん、鍋のことだと思うんですけどねえ」
「それから、食べている間は、決して、歯を見せないでください」
「で、そういうこと言われたので、やっぱり気になるわけですよ。最初に扉を開けた男も。
やっぱり、一度かかわったからには気になる。身分不相応かなとも思ったんだけど、つい背伸びして入会しようとするわけです。
『では、鍋の材料をお出し下さい。どんなものをお持ちですか?』
男は貧乏なので、ロクなものを持っていない。
『水ぐらいしか...』」
(一同、笑)
「いや、貴重品かもしれないじゃない、水が。この時代」
「時代?」
「だって、秘密裏にイノシシを食ってるんだから、もしかして禁令とかが出るのかもしれない」
「単に秘密にイノシシ食うのが好きな会かも」
「このデッキ、人名出てこねぇなあ」
「その説明した人は、『ハァ』と短く息を吐いたんですが、渋々、承諾しまして
『じゃあ、この会員証を取ってください』
と言いました」
「認められたんだ」
「『認められたからには、みんな鍋仲間です』
と言って、中にいた人は、冷蔵庫を開けて
『御飯のお供にこれでもどうかね』
と言ってくれるんですが、
『ただし、手刀で』と言います」
「え?」
「水しか持ってきていないなら、鍋をつつくなんてまだ早い。とりあえず手刀で御飯を食べていなさい、と」
「ひどいなぁ!」
「鍋に手を突っ込んで、バシッ! て」
「とりあえず、中に案内されたわけです。そこには、電球ひとつしかない暗い部屋がありました。慌てて中に入って行くと、中にいた人達は緑黄色の有機野菜を取り出そうとしていました。戸棚を開けると、そこから粉が吹き出して来ました」
「たぶん、小麦粉かなんかでしょう」
「『いやあ、間違えちゃったよぉ』
とか言って、その人は右隣の棚を開け、猫などの小動物を取り出しました。
「新人の彼に言います。
『さあ、君。これを早くさばくんだ。生き物ですので、お早めに。できれば、あんまり大きいと食べにくいから、短くさばいてくれ』」
「さすがに、その男も後悔しはじめて、忍び足でそっと抜け出して、扉の前の横断歩道を渡りましょう...と思いました」
「え、それ、どこでやってんの?」
「横断歩道に面した扉の前でしょう」
「翌日...と言っても、夜だったのでせいぜい1〜2時間ぐらいしか経っていませんが、その男が入ろうとしていたボタン鍋を食べる会は、アストニ宗という新興宗教の集まりであり、最後まで食べつづけたものは強制的に入信させられていたのだ、という噂が立ちました」
「その割には、ちゃんと入会申し込み書とか見せてたよな」
「きっと、申込書を書かせて逃げられないようにしてたんです」
「なるほどね。後で法的に訴えられても大丈夫なように」
「そこでは、小動物を陰干しして、それを漬けた蒸留酒などを飲んでいた。でも、そういう飲み物の飲みすぎには注意しましょう、と言われます」
「『はあ〜、あんな恐ろしい牡丹鍋を食べなくてよかった。ネコ鍋だったかもしれない』
と胸をなでおろしていると。竹中直人のようなニコニコした男がやってきました。その男は語りかけます。
『あなた、あの宗教では御不満なんですね? 御要望におこたえして、私の素晴らしい新興宗教に御案内しましょう。この装甲リムジンに乗りましょう、乗りましょう』
と勧められ、無理矢理押し込められて中に入れられてしまいましたとさ」
「竹中直人もリムジンもワードじゃないから、これは気に入らなかったら無かったことにしてもいいね」
「そのリムジンは汎用的に使えるようになっており、キッチンからトイレから何から全部装備されていました。しかし、トイレを流していなかったために、吐き気をもよおしてきました」
「それ、リムジンかよ」
「キャンピングカーじゃん」
「いっぽう、闇の牡丹鍋の会“アストニ宗”では、入会申し込みをした男が、結局、何もせずに逃げてしまったということで、幹部が激怒しているわけですよ。
『あいつを捕らえて、制裁を加えなければならない!』
それには、伝統的な拷問方法があるのです。
ウニ...あれね、トゲトゲの。ウニを使って、
『内側に捻りこむよ、ウニ』」
(一同、笑)
「『そういう罰を与えなければならないから、その男を探し出せ』
ウニの拷問を加えるために。
その指令を出したのが女性で、“ラン・ヲソノ”ママ」
「はあ」
「苗字がラン、名前がヲソノ。ママは通称」
「ヲソノママは幹部なの?」
「幹部です」
「そのラン・ヲソノママの命令を、部下は背筋を伸ばして聞いていました。
指令が出されたところはちょっと高いところにあったのですが、部下達は何を考えたのか階段とか降りるよりは早いからと窓からおりました。でも、彼らにとっては軽くジャンプする程度のことだったのです」
「超能力持ってるわけやね。ここのアストニ宗の人達は」
「色々食べてるから」
「猫などの小動物とかね」
「それより、そのまま小麦粉入れてあったの? 袋とか何かにいれないで」
「しかも、生き物のまま入れたりしてるしねえ。食材として」
「建物から飛び降りても軽くジャンプする程度の彼らにとって、装甲リムジンを捕まえることなど訳も無いことでした。
『我々の超能力で奴を捕まえたら、中から奴を引きずり出すのだ』
しかしその中(追手)には、新人の人もいて、力の出し方がわからない人もいます。
『どうやって力を発揮するのですか?』
『うむ。対象物を手に持ってな。出るように念じるのだ』」
「リムジンを持つんかい!?」
「何が出るって?」
「力が」
「ハンドパワーね」
「出始めたら、簡単に消さないように。破裂することがあるからな」
「その注意事項をよく聞いた新人は、狙いすまして、力をこめて、念じたわけです。しかし、その力は装甲リムジンにはかかりませんでした。力を後ろにそらしてしまったのです。
その新人は、
『ああ、俺の人生は終わりだ!』
と青ざめています」
「バカ野郎、力のこめかたが違うんだ。テレビのチャンネルをあわせるように力を合わせるんだ」
「なるほどぉ」
「って、わかんねえよ」
「とか何とか言ってるうちに、リムジンは走り去ってしまい、彼らは地団太を踏みました」
「だけど、そのリムジンには...防犯ボールみたいのあるじゃないですか。投げるとペンキがベタッと付くやつ...合成着色料入りのボールを投げつけておいたんで、追跡は簡単だったんですよ。
で、彼らはリムジンを捕まえて、車ごと、煮えたぎるお湯につけてしばらく待っているのでした」
「牡丹鍋じゃなくて、今度はリムジン鍋かい」
「そういう宗教なのね」
「『これ暖めれば、リムジンも食えるな。中に人間入ってるし』
とか言いつつ、みんなで宴会になったのでした。
おしまい」
「救われねえなあ」
「まあ、よかったじゃない」
「はいはい、別の行こう、別の」
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