バカ物語「家政婦・志麻の純愛」
「一人の男が朝起きて、顔を洗おうとすると。足の小指をぶつけました。
当然、涙が出たんです」
「涙目をこすりながら男は、いつもの日課として、テレビをつけてニュースをみました。
ニュースの中で、アナウンサーががなりたてています。
こんな短い時間で、首相が情報技術革命を実現することができるか...というテーマで、朝まで討論会が続いていたんです」
「ニュース見たんじゃなかったの?」
「ニュースを見ようテレビをつけたんだけど、討論番組がまだ続いていたんです」
「それを見ながら、彼は思いました。
『まあ、人の国のことだからいいや』
つまり、彼は日本人ではなかったのです。そんなことより彼は、朝御飯のことで頭が一杯でした」
「朝御飯のことで頭が一杯なんですけど...
『食材が足りないような気がする。何が足りないんだろう?
あ、わかった! 足りないのは大根なんだ!』
そのとき、彼に声をかけてきた人がいます。
『大根が無いとか言って、悩んでいるようですね。でも心配しなくていいんですよ。外を見てごらんなさい』」
「...と、その三宅・志麻さんは言いました」
「三宅志麻さん? お手伝いさん?」
「奥さんかもしれない。日本人の」
「国際結婚か」
「大根は無くても、私達の溢れる愛と、サミットがあるじゃないですか。アパートの向かいには」
「サミット?」
「スーパーマーケットの“サミット”です」
「愛は無くてもいいような気がするけどな」
「でも、愛が無いと」
「愛は最高の調味料だから」
「なるほどね。じゃ、この三宅志麻さんは恋人か奥さんなんだ」
「愛人かもしんないけど」
「その三宅志麻さんに向かって、男は言いました。
『君はいきなり何てこと言うんだ。サミットは確かにありがたいとして、いきなりやってきて愛を押し付けるなんて。まるで低俗な風俗産業だ』」
「ストーカーか、じゃあこいつ(三宅志麻)は」
「恋人とか奥さんじゃなさそうです」
「と、その男・カメイサンは...」
(一同、笑)
「亀井さん!?」
「外国人じゃなかったんですか?」
「カメーイサン、とかなのかな(アクセントを「メー」に)」
「亀井さんじゃない。カメイサン(アクセントを「メ」に)」
「カメイサン(アクセントを「カ」に)」
「イザヤ・ベンダサンみたいなのね」
「それで行こう。カメイサン」
「カメイサンは、懐に銃を持ってましたんで、銃を撃つこともやぶさかではありませんでした」
「なるほど」
「そりゃ、住居に勝手に侵入して来るストーカーにはねえ」
「外人だし」
「『フリーズ!』っつって動いたら撃ち殺してもいい国もあるしねえ」
「おりしも、テレビでは」
「ああ、ついてたんだねえ」
「『官民一体となり...』
とかなんとか官房長官が弁明をしている最中でしたが、男は怒りにかられてテレビに弾丸を撃ち込み、
『お前は黙って大根を買ってきてくれればいいんだ!』
と叫んだのでした」
「つまり使用人なんだね。三宅志麻さんは、一方的に想いを寄せているけど、カメイサンにとっては単に使用人だから、料理さえ作ってくれればいい」
「でも、銃を撃ってる...」
「テレビで官房長官がなんか言ってるんだけど、そこに銃弾撃ち込んで」
「ヒステリーかい」
「大根を買ってきた三宅さんは、カメイサンに出しました」
「きっと、サンマが出てきたけど、大根おろしがついてなかったんで激怒したんだね、カメイサンは」
「じゃ、そういうことにします。大根をおろしてサンマに添えてだしたんですが、三宅さんはその横にナンを出しました」
(一同、笑)
「ナンって、あのインド料理のやつね」
「当然、カメイサンは怒ります。
『ナンは合わないだろう、三宅さんよぉ。』
でも、三宅さんは
『いや、セーフでしょう』
と言います。カメイサンは
『ナンでもセーフに反対...』
(一同、爆笑)
「サンマにナンはねえだろう」
「三宅さんは涙ながらに訴えるんです。
『何で、私の心のこもった料理が食べられないんですか!?』
『君がいくら心をこめようと関係無い。俺は裏の世界に生きる男だから...』銃を持ってるぐらいだからね『裏の世界に生きる男だから、誰とも心を通わすつもりはない。当然、キミとも心を通わすつもりはない。だからミヤケ。そんなことはよさんか』」
「とかなんとか脅したりして三宅さんを動かしていました。なお、テレビは...ぶっ壊れたんでしたっけ?」
「ぶっ壊れてます。銃弾撃ち込まれて」
「テレビでは官房長官の交代というニュースが流れてたんですが、ぶっ壊れてたんでわかりません。ので、本編には関係ありません。
「しかし、カメイサンは気づきました。その、三宅さんが出したナンは普通のより少しある厚みで、開かれた中に色々と具を詰めれば美味しかったのです。で、試しにサンマと大根を入れて食べてみたら美味しかったのです」
(一同、笑)
「で、
『気に入った。お前は、俺の国で重要な職につけてやろう。お前のその気の利きようだったら、3年後、そして5年後には、ワレが国を収めることもできるやろ
行方不明者ということでもいいから
5年後には我が国を |
「ワレ、って二人称なのね」
「大阪弁使ってんのか」
「外国人に、そんな権利を認めてるんかい、カメイサンの国は」
「きっと、三宅さんは自分の愛が受け入れられたとか思ってるんだろうな」
「カメイサンって、偉い人だったのか」
「裏の世界の人間でしょ?」
「偉そうではあるけどね」
「裏の世界で、誰とも心を通わせたことのない人間」
「偉い人じゃなくても、お前なら国を治めることができるだろう、ぐらいの予測は」
「きっとその国の法律で、移民はすぐには選挙権が与えられないけど、5年経てば正式に国民として認められるんだ」
「単なるでまかせかもしれないし」
「酔っ払いが国を動かす話をしてるのと同じようなもんか」
「『俺が大統領になったらよぉ』
とか町の居酒屋で」
「隣の部屋で聞いていた側近Aは
『大変な発言を聞いてしまった。これは議論すべきじゃないですか。今日から国会だ』」
「やっぱ偉い人だったんじゃん」
「そこへ側近Bがやってきました。
『ちょっと待てよ。それはうちの国の海兵隊が考えることだろう』」
過去の話で
秘密ではない
海兵隊が考えることだろう |
「この国は、軍部が掌握してるんですよ、完全に」
「全ての政治家は海兵隊の傀儡」
「と、喧々囂々の議論をした末に、
『ま。人それぞれだよな』
と言って和んでしまいました。彼らは、もうこんな話をするのは馬鹿馬鹿しいと、部屋から出て行ってしまいました」
「やっぱ、これ酔っ払いだったんじゃん」
「そのころ、ナンをとても気に入ったカメイサンは自分でもナンを作っていました。初めて作るもんで、よくわからないまんま出来上がっちゃったんで、三宅さんから
『これじゃ、ナンか分からない』
などと言われ、とても不愉快な気分になっていました。」
「でも、三宅さんは料理の達人だから、助言する訳ですよ。
『こうすれば美味しくなるよ。ウニ、すると』
...すりおろして入れるんですね」
「またウニですか」
「ウニ好きですねえ」
「だって来るんだもん...で、信じられないんで、
『キミ、これ今までに試したことがあるのかね?』
『いいえ、ありません。初めてです』
『それで、何で美味しいってわかるのかね』
『いや、絶対に正しい! 私の勘がええから』
「料理は勘なんですよ」
「なんか、スパイものかホームコメディかわかんない」
「そういう三宅さんの助言を受け入れ、少しづつ着実に料理が上手くなってきています。一方、ニュースでは国会解散のニュースが流れていましたが、これもまたテレビが壊れているので本編には関係ありません」
「その時、アパートに、どやどやとカーキ色の服を着た人達がなだれ込んできました。
『なんだなんだ!?』
と、カメイサンが問いただすと
『おや、君はテレビを見ていないのかね? 日本は国会が解散して軍事政権となり...』」
「解散って、そういう話かよ」
「『君の国を急襲の方向で動いているのだ。そして、アジアを、日本を中心とした大きな輪で結ぼうという声が国民の間から出ている。そういう大きな輪の要望や、大きな輪の声に応え、我々は君を拘束する』」
「『私の国には、非常に悪いところもあった』
カメイサンが言います。
『しかし、いきなり急襲と言われても、そういう気持ちにはなれない』」
どの政党と、どの政党が組む
非常に悪いところもあった |
「まあ、そら普通はねえ」
「『そんな難しい問題には、すぐに結論を下すことはできない。まずは本国に帰って検討したいんだが』
とカメイサンは言いますが、なだれこんできた男達は
『本国へ帰る? こいつ、この状況で何を考えているんだ』
『いや、考えなんてないよ。さあ、連れて行け』
と言って、さっさと連行してしまいました」
「カメイサンは連れて行かれたんで、三宅さんは一人暮しになってしまいました。ですが、日本の軍事政権はインドが嫌いみたいで、ナンは食べ物じゃないと」
(一同、笑)
「またナンのネタかよ」
「つまり、そいうナンをナンとも思っていない人達だったんですね」
「それで、最近、近所のサミットにはナンが置かれなくなったんで、三宅さんは少し離れたオリンピックまでナンを買いに行きました」
「オリンピックも、スーパーの名前ね」
「サミットからオリンピックに行ってみましたが、状況はみんな同じです。政府によって禁止法ができていて、ナンは手に入らなくなっているわけですね。もちろん、一般に手に入らないモノは闇ルートで売買されるというのは、どこの社会も同じ。何とか闇ルートでナンを手に入れようとするんですけど、やっぱり困難がある。問題は資金だ」
「闇市場では高いんです」
「三宅さんは、ご主人がどうなろうと、自分の料理に精を出せればいいんですね」
「主人公、三宅さんか」
「むしろナン」
「ナンが高くなるのは嫌ですが、こうなったら背に腹は代えられないので、裏ルートも検討しないといけませんね、とか考えていました」
「そして色々悩んだ結果、三宅さんは発明しました。三宅さんの発明で、ショウガを加えることで、ナンは非常に日本風の味わいになったのです」
「...ハァ」
「それを日本の軍事政権の要人に食べさせて
『うむ、これは確かに食べ物だ』
と納得させることに成功しました。
『喜んでいただけましたか? では、カメイサンを返してください』
『それはできない。ナンが食べ物であろうがなかろうが、その件には関係が無いのだ。彼はもう死刑にされてしまった』」
「ええっ!?」
「『で、ところで君はどうするんだね?』
三宅さんは答えました。
『私はこれから一生、彼の霊を弔って行こうと思います』
『それは、仏門に入るということかね?』
『ああ、僧ですよ』」
「と、いうことで、三宅志麻さんは最後は僧侶となったのでした。一生、カメイサンの霊を弔っていたということです」
「これで政府に弾圧されたことによって、隠れた食材を食べる秘密結社とかがいっぱいできて、さっきの牡丹鍋を食べる教団とかができたのかな」
「牡丹鍋もきっと、好きで猫なんか入れてたんじゃなくて、政府の規制で食材が手に入らなくなったから仕方なくやってたんだね」
「でも、インド人は猪食わねえだろうからなあ。別に禁止しないんじゃない? もともと、インドが嫌いだからナンを禁止したんでしょ」
「禁止するにも別の理由があるんでしょ
【トップ】
【「かんぽ」の部屋】
【バカカード】