バカ物語「不死身の日本人伝説」
「昔々、あるところに、お馴染みのおじいさんとおばあさんが住んでいました。そこに、ひとりの男の子が生まれることから物語は始まります」
「有名人なの? おじいさんとおばあさんが」
「いや、まあ昔話の導入部としてはお馴染み、という意味でしょう」
「おじいさんおばあさんが有名な訳じゃないのね」
「おじいさんとおばあさんは、男の子が生まれると、すぐにその子を生き埋めにしてしまいました」
(一同、爆笑)
「おいおいおい」
「何なんだよ、いきなり」
「そして、その生き埋めの行為を、ルネッサンスと名づけることにしたのです」
「最低」
「確かに子育て方法としちゃ斬新だけどさ」
「スパルタ教育に続いて、ルネッサンス教育」
「でも、それで、何で生き埋めなんだ?」
「そして、おじいさんおばあさんは、金儲けのため、その息子を見世物にしました。首だけ地面から出てるんで、
『生き埋めだよ、生き埋めだよ〜』と」
「そんな生活に耐えられなくなった息子は、ついに独立して両親の元を出ていきました」
「どうやってだよ」
「生き埋めのまま?」
「そりゃ、穴から這い出してでしょう」
「そんな大きくなるまで、ずっと生き埋めのまんま育ってたんかい」
「どうやって独立したのかというと
自分がいては、この家は貧乏なままだ。食い扶持がかさむから。俺は死んだ方がいいんだ、と考えて、自主的に毒を飲んだんです」
「確かに、親元は離れるかもしれないけど」
「それ、独立って言うの?」
「そこに、イギリス人が通りかかりました」
「『オ〜、ニッポン、ナンテ野蛮〜』」
「って、ここ日本なの?」
「外国かもしれない」
「でも、おじいさんとおばあさんが住んでいて、昔話でお馴染みの土地って言ったら日本じゃないの」
「なんかわからん理屈だけど」
「そのイギリス人は、その子供の首を切らせました」
「ええ〜?」
「介錯してやったんじゃないの?」
「毒飲んで苦しんでたから、かわいそうだ、武士の情けだって言って」
「イギリス人がですか」
「子供は、毒を飲んだのに加え、首に切りつけられた痛みと苦しみで、暴れ、動きました」
「あまり激しく動いたので、とうとう埋めていた土が崩れ、体が地面から出てきました。しかし、子供はまだ動くのをやめません。まるで投げられたように彼は転がって行きました」
「でも、もうすぐ死ぬよね」
「いや、ラスプーチンの例とかもあるから、わかんないよ」
「結局、このイギリス人、単なる酔っ払いじゃん。通りすがりの」
「しかも、ヤポンかぶれの」
「『オ〜ゥ、武士ノ情ケデ〜ス』とか言いながら、サーベル抜いて
『介錯イタシマ〜ス』」
「この、涙を誘うような少年の話は、さらに涙を誘う話に続きます。その転がっていった先は、戦火に焼かれる街だったのです」
「ああ、戦争が起こっていた訳ね。近所では」
「どんな距離転がっていったんだ」
「親子喧嘩なんかやってる場合じゃないじゃん」
「それで見世物とかやってるわけ? 『生き埋めだよ、生き埋めだよ』とか」
「その戦火に焼かれた街でも、毒を飲んだり首を切られたり転がったりしてできた傷はよく目立ち、彼は差別に苦しむことになるのです」
(一同、笑)
「かわいそうだ、こいつ」
「すげーかわいそう」
「それ以前に、生きてるんかい!?」
「激情の人生は、まだまだ続きます」
「そんなひどい目にあわされた少年は...もう、少年ね。子供じゃなく。独立もしたし...少年は、『いつか、あのジジイとババアに復讐してやる』と心に誓い、」
「正しいよ」
「奴等を探すこと三年、彼らの消息をつかみます。しかしそこで、ジジイとババアは牢に入れられ、獄死していることを発見したのでした」
「じゃあイギリス人に復讐しようか」
「でも、この人は情けをかけて楽にしてくれようとした人だから」
「でも、切られたことには変わりが無い」
「そのイギリス人の名はアルキメデスということもつきとめました。しかし、そのアルキメデスさんも、戦争の犠牲となって、もうこの世にはいませんでした」
「ええ〜!?」
「報われねー」
「ハイ、誰もいません、もう」
「復讐する対象さえいないのか」
「さらに彼は、戦火に焼かれた街にいたおかげで、体を放射能に蝕まれていたのです」
「うわー」
「さらに不幸の追い討ちか」
「関係する人間はどんどん死んでいって、人生の目標も失って、自らも放射能におかされる。なんという悲劇だろう...
それでも地球は回っている」
「その少年、ウズ・タカシ君は...」
うずたかく
うずたかし
仲間らと共に
どうしてもわからない
どうしてもわからず |
(一同、爆笑)
「そういう名か!」
「ようやく名前がついた」
「...まさに内戦の犠牲者と言ってよいでしょう」
「内戦が起きてたのね」
「それで戦火に焼かれてたんだ」
「悲惨だねえ」
「ウズ・タカシは、非常にみじめな境遇です。復讐もできないとあって、不満だらけでした。
『それもこれも、みんな政治家が悪いんだ!』 」
「政治家が悪いなら自分が政治家になってしまえ...そう思ったウズ・タカシ君は、アフリカで政治家になりました」
(一同、笑)
「そんなタカシ君の政治家生活も、長くは続きませんでした」
「続かないのか!?」
「反乱により、兵士に捕らえられてしまったのです」
「反乱軍は、彼の生き延びる能力を恐れていて、このような生き延びることの天才は、どんな手段を用いても殺してしまえと兵士達に命令しました」
「と、命令したのは、後から日本から渡ってきた、ツルギオ・マナブ君でした」
「マナブ君とタカシ君は、犬猿の仲だったんです」
「ツルギオは、ウズの処刑を命じます。ウズ・タカシは刑務所で服役していたんですが、あるときを境に、彼の姿を見た人はいなくなります」
「え、何? 目撃者が行方不明になったの?」
「いや、ウズ・タカシが牢獄から行方不明になったの。脱走したという噂もあれば、密かに処刑されたという噂もある。真相は不明」
「もちろん、タカシ君はとある場所に潜伏していたんですが、そこで何をしたかったかと言うと、いきなり学問に目覚めたのです。それで夢中になって学問をして、とうとう世界中のどんな言葉でも、辞書無しで読み書きできるようになりました」
「そして彼は偉くなりました。やがて再び権力を握ります。そうすると、かつて彼を捉えた軍部も、態度を翻すわけです。
ところで、逃亡中に怪我を負った彼を助け、語学を学ぶ手助けをしたのは、逃亡中に出会った看護婦でした」」
「偉くなったのね」
「今度は学者になって」
「凄い奴だな。不死身の男」
「看護婦さんに助けられたタカシ君は、偉くなり、余裕もできたので、夢を実現させることにしました」
「こいつに、夢なんかあったのか」
「ジジイとババアの墓を掘り出して殴るとか」
「そして、夢にまで見た復讐を...」
「やっぱ、そこから離れられないのか」
「復讐を果たすべく、ツルギオ・マナブを焼き討ちすることにしました」
一向一揆
比叡山
焼き討ち
手を焼き
手を焼きました |
「まあ、それだけやりたくもなるだろうね」
「そして、同時期にアフリカに渡って来た、本能寺君を招き」
「誰だよ、それ!?」
「側近だね、きっと」
「ちなみに、この本能寺君。後になって、社会風刺の第一人者と言われるようになるのですが、それはまた別の話」
皮肉にも
後になって
認められない
認められませんでした |
「ってーことは、それまでこのキャラは殺すことができなくなってしまった訳だな」
「この復讐劇を元にして、社会風刺の第一人者になるの」
「こんなドロドロした政争に関わってる奴に、風刺なんかする資格無いと思うけどな」
「眺めてるからこそ、できるんですよ」
「裏を知ってるから」
「こうして、ツルギオ君の家を焼き討ちする様を、絵画にしてですね、有名になるわけですよ。本能寺君は」
「えー? 風刺じゃねーじゃん。まんまじゃん」
「いや、デフォルメして描いてあったり」
「ああ、ゲルニカ!」
「家のとこに金がうずたかく積まれてる絵とか描いたり」
「どうだ、明るくなったろう、とか」
「その絵画は、ウズ・タカシの故郷である日本の、上野公園に展示されました」
「まあ、博物館あるしねえ」
「ちなみにツルギオ・マナブはと言うと、焼き討ちされて、火から逃れて家の最上階にまで行ったんだけど、そこで追撃してきた本能寺の手にかかって、地上に落下していったのです」
「本能寺、何やってるんだ。絵描きながら」
「そりゃ、現場でスケッチしたんじゃなくて、後で光景を思い浮かべながら描いたんでしょう」
「わかんないよ。炎の中、絵筆もって、ツルギオに向かって『動くんじゃないぞぉ』」
(一同、笑)
「復讐を果たしたウズ・タカシ君が次に疑問を抱きました。
自分は、なぜこんなに不死身なのか?
そこで、一度に10人の科学者を招いてディスカッションしましたが、手がかりは得られません」
「体の秘密の追究になるのか」
「体の秘孔の位置が左右逆にある、とか」
「唯一わかったことは、やはりウズ・タカシ君の祖父の体に秘密があるらしい、ということでした。
そこで、彼は故郷の日本に帰り、祖父の墓がある大宮に行きました。
そして墓を暴いて調べて見ると、明らかに殺害された跡がありました」
「さて、彼らを殺害したのは誰だったのか?」
「すみません、この残り枚数で、そんな謎を出されても困るんですけど」
(一同、笑)
「とにかく、殺されてたのね」
「おじいさんとおばあさんって、投獄されて死んでたんだよね」
「そう。獄死って行っても、殺されてたの」
(注:ウズ・タカシはおじいさんとおばあさんの間に生まれた息子なんだから、正確には祖父母ではなく両親。プレイ時には誰も気づかなかった)
「殺害されたと知って泣きはしたものの...」
「泣くんだ。復讐したがってたくせに」
(一同、笑)
「泣きはしたものの、まあいまさら蒸し返さなくてもいいやと思い、ウズ・タカシ君は、その後も天下統一への道を歩むのでした。
終わり」
「今度は世界政府か!」
「素晴らしい」
「アフリカぐらいでくすぶってるわけにはいかん、ということか」
「まあ、不死身だし」
「うん。死ぬことないし」
「よくがんばったね。ウズ・タカシ君」
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